浅海生態系における気候変動の緩和機能(大気中二酸化炭素(CO2)の吸収機能や生態系内への炭素貯 留機能)が注目され始めているものの,その全国推計例はない.そこで本研究では,気候変動に関する政 府間パネル(IPCC)のガイドラインに倣い,生態系内の炭素貯留量の増加量を大気中CO2の吸収量と定義 し,国内外の既往文献をベースにデータ解析した.そして,我が国の浅海生態系(海草藻場,海藻藻場, マングローブ,干潟)における年間CO2吸収量の全国推計を試みた.その結果,現状におけるCO2吸収量 の平均値は132万トンCO2/年,上限値は404万トンCO2/年と見積もられた.このような現状値あるいは将来 値の推計を進めていくことは,地球温暖化対策計画における吸収源対策に浅海生態系を新たに定める検討 や,浅海生態系の価値評価において有用であると考えられる. Key Words : blue carbon, CO2 absorption, seagrass meadows, macroalgal beds, mangroves, tidal flats 1. はじめに 浅海域における自然再生の手立てとして,数多くの干 潟や藻場が保全,修復,あるいは創造されている.再生 される浅海生態系には,水質浄化,食料供給,観光,レ クリエーションといった恵み(生態系サービス)が期待 される.そのなかでも,二酸化炭素(CO2)の吸収とい う新たな恵みが注目されている.海洋生物によって大気 中の CO2が取り込まれ,海洋生態系内に貯留された炭素 のことを,国連環境計画(UNEP)は「ブルーカーボン」 と名付けた 1) . 陸域や海洋は,地球表層における炭素の主要な貯蔵庫 となっているが,陸域と比較して海洋が炭素貯蔵庫とし て重要なのは,堆積物中に貯留されたブルーカーボンが 長期間(数千年程度)分解無機化されずに貯留される点 である 2) .全球の海底堆積物へは,年間 1.9~2.4 億トン の炭素が新たに埋没し貯留されると推定され,浅海域は そのうちの約 73~79%(1.4~1.9 億トン)を占めるとの
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KUWAE, T., YOSHIDA, G., HORI, M., WATANABE, K., TANAYA, T., OKADA, T., … SASAKI, J. (2019). NATIONWIDE ESTIMATE OF THE ANNUAL UPTAKE OF ATMOSPHERIC CARBON DIOXIDE BY SHALLOW COASTAL ECOSYSTEMS IN JAPAN. Journal of Japan Society of Civil Engineers, Ser. B2 (Coastal Engineering), 75(1), 10–20. https://doi.org/10.2208/kaigan.75.10
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