痒みには抗ヒスタミン薬が奏効する痒みと抗ヒスタミン薬に抵抗する痒みがある。前者の痒みはヒスタミンが痒み発現に主要な役割を演じている末梢性の痒みの場合である。一方、後者の痒みは、いわゆる難治性の痒みと言われる痒みで、痒み発現に蛋白分解酵素(トリプターゼなど)や炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1など)、好酸球由来因子(活性酸素、ECP、MBP)などヒスタミン以外のケミカルメディエイターが痒み発現に関与している場合、あるいは求心性C線維が機械的、化学的あるいは温度刺激のような外部からの刺激により活性化される場合、あるいはオピオイドペプチド/オピオイドレセプター系の関与する中枢性痒みメカニズムによる場合などである。抗ヒスタミン薬の奏効しないいわゆる難治性痒みを呈する疾患には腎不全に伴う血液透析患者や胆汁うっ滞が原因で生じる黄疸や肝硬変などの肝疾患やアトピー性皮膚炎などの痒みがある。本講演では腎透析に伴う痒みとアトピー性皮膚炎に認められる痒みの発現メカニズムと対策について考察した。腎透析に伴う痒みの原因としてヒスタミン、セロトニン、ECP、副甲状腺ホルモン、補体の活性化、皮膚の乾燥など多くの因子が推定されているが、これらの血中濃度や症状と痒みの強さが相関しないこと、抗ヒスタミン薬が奏効しないこと、それぞれの因子に対して対処しても痒みが抑制されないこと、などからこれらの因子は否定的である。われわれは本症の痒み発現にオピオイド系(μ-オピオイド系とκ-オピオイド系)が関係していることを示し、κ-オピオイド系を優位にすることにより痒みが抑制されることを示した。アトピー性皮膚炎の痒み発症には多くの因子が関与している。肥満細胞由来因子(ヒスタミン、トリプターゼ、TNFαなど)、表皮内神経線維、サブスタンスP、好酸球由来因子(活性酸素、ECP、MBP)、リンパ球由来サイトカイン(IL-2)、ケラチノサイト由来炎症性サイトカイン、オピオイドペプチド/オピオイドレセプターなどである。従ってアトピー性皮膚炎の痒みを一元的に捉えるのではなく、多元的に捉え対処する必要がある。本講演では痒み閾値の低下の原因と考えられる表皮内神経線維とオピオイド系の痒み発現への関与と対策について考察した。(著者抄録)
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TAKAMORI, K. (2007). Mechanisms and management of intractable pruritus. Juntendo Medical Journal, 53(2), 193–199. https://doi.org/10.14789/pjmj.53.193
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